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知床遊覧船事故から学ぶべき安全管理基準の重要性

2022.04.29
カテゴリ: お知らせ

ご存知の通り、 2022年4月23日 、乗客乗員26人を乗せた観光船「KAZU I」が、知床半島の沖合で遭難し、これまでに11人の死亡が確認するという痛ましい事故が起きました(2022年4月29日現在)。お亡くなりになられた方には、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

この事故は、改めて、全ての企業に対して、①安全管理に関する基準の明文化の重要性と、②優先順位を決め基準を冷徹に運用することの重要性を突きつけました。

①人命に関する安全管理の基準の明文化

基準が安全管理規程に定められていなかった

規程を人任せで作成しているため、規程に何が書いてあるのか知らない経営者は、世の中には多いのではないでしょうか。

安全管理規程について尋ねられた桂田社長は、「波が1m以上で欠航、風速8m以上で欠航、視界が300m以上ないと出航できない」と発言したものの、会見の途中で「さっき話した1m、8m、300mというのは安全管理規定には書いてありません」と全面撤回し、さらに資料をペラペラとめくりながら、「もうちょっとあいまいな表現になって、数字が出ていないんですね。安全管理規程には数値は出ていないです」と続けました。

観光船の運航業者は、出航の判断基準を定めた「安全管理規程」を国土交通省に届け出ることになっているので、この不備がいつから続いていたかはわかりません。

ですが、明確な欠航基準を規程に書かず、曖昧で欠航基準であったことが明らかになりました。

多くの会社でも、決裁ルートなど特に規程が存在せず、暗黙のルールで運用されている実態はあるかと思います。しかしながら、ことお客様の安全関わる基準に関しては、曖昧で明文化していないと、今回のように、それがなし崩し的に逸脱され、不幸な事故を起こすことになります。それは、100回大丈夫でも101回目で起きる可能性もあるのです。

人命に関する安全管理の基準の明文化がいかに大切か、本件で痛感した方も多いかと想います。

引き返しは属人的な判断に依っていたこと


桂田社長は、「豊田船長から、『午後、天候が荒れる可能性があるが午前10時からの出港は可能』との報告を受けた。そして、当時風と波も強くなかったので、海があれれば引き返す、『条件付き運行』で出港を決定した」と言いました。そして、桂田社長は、「条件付き運行」で引き返すときの明確な基準もなかったと言い、全て船長の属人的な判断に任せていました。

会社では、優秀と思われる人の属人的な判断に任せて、判断をすることの方が多いでしょう。しかし、お客様や従業員の安全に関わる判断については、一人だけに全ての安全を委ね、属人的な判断で決めさせてはならないのは明白です。

このように、そもそもこの会社には、明文の欠航基準がなく、かつ、引き返しについても属人的な判断に依っていたことが、この事故を起こした大きな要因になりました。

②優先順位を決め冷徹に運用すること

桂田社長は、「お客さまもやっぱりいちばんこのような(知床半島の)先端まで来てですね、『できればちょっとでも走ってほしい』というご要望がすごいあります。」として、お客様からの要望も常々あり、それに応えたいという想いがあった発言をしました。

このわざわざ知床まで来た「お客様に喜んでいただきたい」という善意からくる誘惑は強く、私もその気持ち自体は理解できます。ですが、その善意が、お客様を恐怖に陥れました。

このような、お客様に喜んでいただきたいという誘惑に勝つためには、会社の優先順位・行動指針を明確にし、社長が冷徹に徹底する他ないと思います。いかに形式的すぎると言われても、ここに感情はいりません。

つまり、第一に優先すべきはお客様の安全であることを常に会社で言い聞かせる。欠航基準の波の高さが10センチでも超えたら、出航を取りやめにする運用を徹底する。

安全の優先順位付の徹底ができないのであれば、その会社・社長は、やはり人の安全を預かる事業をしてはならないと思います。

まとめ

このように、この会社は、安全管理規程における欠航基準の明文化もせず、船長の属人的な判断に任せ、安全を徹底する運用を全くすることができずに、この痛ましい事故を起こしました。

このブログをご覧になっている方には、人命を預かる事業をされている法人の関係者の方もいらっしゃるかと思います。ぜひ、明日は我が身と思い、社内の安全管理基準の確認と、その徹底を進めていただくきっかけになることを願っております。

時系列(参考)

午前9時42分 「波浪注意報」が出ていた

午前10時 ウトロ漁港を出港

正午 波の高さが1mを超える

午後1時 波の高さが 2mを超える

     「波の高さが約3m」、「最大瞬間風速8.2m」、「強風波浪注意報」が出た。

午後1時18分 船首が浸水

午後2時ころ  波の高さが3mを超える。

        船が30度ほど傾いているとの船長からの連絡

参考記事

https://news.yahoo.co.jp/articles/d89a6d58d737bc0d647bbb863936cc09a8078c5a

https://news.yahoo.co.jp/articles/7fb40cb3c47e137f6ba5189fa532c685f1161e24