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【3分解説】非正規社員の待遇格差訴訟 最高裁判決
3分解説では、最新の法改正や裁判例を、かいつまんで解説します。
初回は、2020年10月13日に最高裁での結論が出た待遇格差訴訟についてです。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020101300528&g=soc
【どんな事案】
◆大阪医科薬科大学のアルバイトの賞与
同大のアルバイトが、同大に賞与を請求した事案(賞与支給の契約や規則はない)。同大のアルバイトは、正職員と業務が共通しているにもかかわらず、賞与を支払わないのは、不合理と主張。大阪高裁では、賞与について正社員の6割を認めた。
◆東京メトロ子会社の契約社員の退職金
同社の契約社員が、同社に退職金を請求した事案(退職金支給の契約や規則はない)。主張の概要は、上記と同じ。東京高裁では、退職金について正社員の1/4を認めた。
【何が争点】
労働契約法旧20条(現パート有期労働契約法8条)では、有期労働者と、無期労働者(正社員)の労働条件の違いが、職務内容や配置変更の範囲やその他の事情から、不合理であってはならないとされている。
今回、大阪薬科大学のアルバイト、東京メトロ子会社の契約社員が、正社員が給付を受ける賞与や退職金の給付を受けられないことが、賞与や退職金の目的・性質に鑑みて、職務の内容等から不合理かどうか。
【最高裁の判断】
◆労働契約法20条について
一般論として、非正規社員に、賞与や退職金を支払わないことが不合理と認められることはあり得る。
◆大阪医科薬科大学のアルバイトの賞与
同大の賞与は、①労務の対価の後払いや②一律の功労報償、③将来の労働意欲の向上などの趣旨と、④正職員として職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図る目的がある。
正職員とアルバイトの職務は、以下の相違点があった。
・アルバイトの業務は軽易で配置転換がない。
・アルバイトは契約期間を1年以内で更新される場合はあっても,長期雇用を前提とした勤務が予定されていなかった。
・正職員の業務は、解剖に関する遺族対応や部門間連携の業務があった。
・正職員は、異動の可能性があった。
・正職員に登用する制度もあった。
したがって、同大の賞与の目的(雇用を維持し確保すること)から賞与を支給しない差を設けるのは、労働契約法20条でいう「不合理」とはいえない。
賞与について正社員の6割を認めた大阪高裁判決を取り消す。
◆東京メトロ子会社の契約社員の退職金
同社の退職金は、職務遂行能力や責任の程度を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務への功労報償などの性質がある。
正職員と契約社員の職務は、おおむね共通するが、以下の相違点があった。
・契約社員は、売店業務に専従
・正社員は多数の売店を統括し、トラブル処理やエリアマネージャー業務
また、同社は、試験による正社員登用制度もあった。
したがって、退職金の複合的な性質から、支給しない差を設けるのは、労働契約法20条でいう「不合理」とはいえない。
退職金について正社員の1/4を認めた東京高裁判決を取り消す。
※ 反対意見あり(宇賀克也裁判官)
・正社員の4分の1の退職金は支払うべき。なぜなら、契約社員も、ほとんど65歳までの勤務が保障されていた。また、退職金が継続的な勤務への功労というのであれば、契約社員にも当てはまる。
◆ 一言コメント
本判決は、非正規社員にとっては、厳しい判断となりました。正社員と非正規社員の業務内容が、全く同じということはほぼありません。また、非正規社員だから争っているのに、正社員登用制度があったことを理由とされれば、正社員になれなかったのだから、仕方ないといわれているようなものです。
とはいえ、会社側としては、非正規社員と正職員を普段からほとんど同じように扱っているにもかかわらず、賞与や退職金で大きな差をつけると、違法と主張され労働審判や訴訟を提起される可能性はありますので、経営者は、両者の業務の内容を同一にすることなく、分かりやすい差をつけることを常に意識しておく必要があります。
(参照)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/767/089767_hanrei.pdf
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/768/089768_hanrei.pdf
(2020年10月15日追記)
会社側弁護士の記事はこちら
https://news.yahoo.co.jp/byline/kurashigekotaro/20201014-00202908/?s=03
「4分の1であれ、退職金請求が認められていた場合、退職金の時効は労基法の定めにより5年ですから、各企業は5年以内に退職した全ての非正規雇用についてさかのぼって調査し、退職金支払額の検討に入らなければなりませんでした。」