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画期的な勝訴判決をとりました。マンション管理組合の水道料金請求訴訟(令和4年9月8日静岡地裁控訴審判決)
(画像:盛岡市上下水道局公式サイト)
令和4年9月8日、静岡地裁控訴審にて、マンション管理組合の水道料金請求事件で、マンション管理組合の代理人として、画期的な判決(判決文はこちら⇒静岡地裁令和4年9月8日控訴審判決) をとりましたので、ご報告させていただきます(2023年8月29日、上告棄却され、確定いたしました。)。
静岡地裁控訴審では、一時、マンション管理組合側に、不利な裁判例が存在することから、敗色濃厚でしたが、マンションの水道料金の徴収制度の説明をし、マンション水道料金の歴史を紐解き、高名な学者の先生の意見書を提出するなど粘り強い訴訟活動をしたことで、戦況をひっくり返し、勝訴することができました。
事案の概要
浜松市浜北区のマンション管理組合が、区分所有者Aさんに対して、未納の水道料金5万2395円と弁護士費用44万円を請求した事件です。
このマンションでは、平成3年の新築当初から、マンション管理組合が浜松市水道局と契約し、マンション管理組合が先に水道料金を立て替えて浜松市水道局に一括して支払い、その後、各区分所有者に対して、基本料金と使用量に応じた水道料金を請求していました(一括検針一括徴収方式)。古いマンションだと、マンションから水道料金を請求されることが、まだまだ多いと思います。
この区分所有者Aさんは、Bさんに部屋を貸していましたが、Bさんが水道料金を滞納したまま亡くなったため、マンション管理組合は、区分所有者Aさんに対して、管理規約に基づき、水道料金立替金を請求しました。
なお、このマンション管理組合では、平成27年の通常総会で、一括検針一括徴収から、各区分所有者が水道局と個別検針個別徴収方式に変更する旨の決議を図りましたが、否決されてしまい、一括検針一括徴収を続けざるを得ないという事情がありました。
争点
争点は大きく2つありました。
論点1.専有部分の水道料金について定めたマンション管理規約は、区分所有法30条に反せず有効か。
区分所有法第30条1項では、「建物・・の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、・・・規約で定めることができる。」とされていて、反対解釈で、共用部分ではないマンションの専有部分については、原則、管理規約で定められないとされています。
論点2.マンション管理規約で、水道料金の未納者に対して、弁護士費用を違約金として加算して請求することはできるか。
水道料金の未納者に対して、実際に支払った弁護士費用を違約金として請求できるとする規約は、敗訴者負担を採用していない日本では、無効ではないかが争われました。
浜松簡易裁判所での判決(第一審)
第一審の浜松簡易裁判所の判決(令和3年6月30日)では、争点1と争点2のいずれも認められ、水道料金5万2395円と弁護士費用22万円が認められました。
これに対して、区分所有者Aさんが控訴しました。
静岡地方裁判所での攻防(第二審)
区分所有者Aさんは、名古屋高裁平成25年2月22日判決、大阪高裁平成20年4月16日判決を引用し、各専有部分の水道料金は専ら専有部分において消費した水道の料金であるから、共用部分の管理とは直接関係がなく、特段の事情のない限り、マンション管理組合の規約で定めても無効であると主張しました。
たしかに、マンション管理組合にとって、不利な裁判例が存在していました。
当初、静岡地方裁判所の裁判官は、2つの裁判例を理由に、マンション管理組合に対して、規約は有効でないことを前提に、敗訴に等しい和解を持ちかけてくることもありました。
しかしながら、やはり、マンション管理組合で立て替えた水道料金は、決して専有部分の話ではなく、共用部分たるライフラインの水道管理という区分所有者全員の話であって、これをマンション管理組合が支払ったのに区分所有者に対して請求できないのはおかしい、個別検針個別徴収に変更したくても、総会で否決されてしまい、一括検針一括徴収を続けざるを得なかったと言い続けました。
そして、一般社団法人マンション管理業協会から受けた情報や、区分所有法で高名な教授である鎌野邦樹先生に作成して頂いた意見書を提出するなどして、マンション管理組合規約の有効性の証拠を積上げていきました。
静岡地方裁判所での判決(第二審)
その結果、名古屋高裁、大阪高裁の裁判例とは、一線を画する判決が出ました。
1.水道料金を各区分所有者に請求することができる規約は有効である
専有部分の水道料金について、マンション管理組合規約に有効に定められることが正面から認められました。これは、先述の大阪高裁、名古屋高裁判決とは、一線を画する判断になります。
「水道水が専有部分である各戸で使用されることから専有部分の使用に関する事項という面があるとしても、上記のとおり、水道水が共用部分である給水施設を経て各戸に供給され、水道水の供給の方式が浜松市上下水道部ど管理組合である被控訴人の契約内容により決定されている以上各戸の水道水の使用は必然的にこれらの施設管理及び契約内容による制約を受けるのであるから、管理組合である被控訴人が区分所有建物全体の使用料を立て替えて支払った上で、各区分所有者にその使用量に応じた支払を請求することを規約で定めることは、建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を定めるものとして、規約で定めることができ、このような内容の規約は有効であるものと解すべきである。」 (静岡地裁令和4年9月8日控訴審判決)
2.違約金として弁護士費用を請求することができる規約も有効である
請求する水道料金は約5万円にすぎませんでしたが、弁護士費用は44万円にも上りました。もっとも、弁護士費用の金額が不相当ともされることなく、請求額全額が認められました。
「管理費等の納付すべき金額を納付しない区分所有者に対し、未払金額に対する遅延損害金のほか、管理組合が当該金額の請求及び徴収等のために支払うことを要した費用について、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用として、これを加算て請求することを定めたものと解されるのであって、当該定めの内容に特段不合理な点を認めることはできない」 (静岡地裁令和4年9月8日控訴審判決)
教訓
本裁判でとても勉強になったのは、裁判官は、不利な裁判例があっても、適切な情報や、高名な学者の先生の意見書があれば、過去の裁判例と見解を大きく変えることがあるということです。
弁護士の私たちは、たとえ不利にみえる裁判例があったとしても、それが不合理だと思うものであれば、諦めずに最後まで粘り強く争い、業界団体などに問い合わせをして何かヒントがないか探し続け、必要であれば高名な学者の先生に意見書を作成して頂くなど、行動をし続けることが大切だと改めて思いました。
この場を借りて、改めて意見書作成を快諾して頂いた鎌野邦樹先生、情報提供をして頂いた一般社団法人マンション管理業協会の方、そして最後まで諦めなかった原告の管理組合と不動産管理会社の方々にお礼を申し上げます。