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フリーランス必見 失敗しない業務委託契約(インボイス制度も)
コロナ渦以降、企業が、副業やフリーランスの方に、記事制作・動画編集・開発などを委託するケースがどんどん増えています。
個人の能力・知見が、多くの会社にシェアされるのは、とてもいいことだと思います。
一方、業務委託について、以下のようなトラブルに遭遇したという相談を多く受けています。
- 追加作業の合意ができておらず、 あとから追加料金の金額でトラブルに。
- 納品記事の著作権が、どちらに帰属するのか、いつまで許諾されているのかでトラブルに。
- 提案したアイディアだけをパクられて、報酬を一切もらえずトラブルに。
- インボイス制度未対応(免税事業者)を理由に、価格を改定され、トラブルに(new!!)。
このブログでは、トラブルにならないように、失敗しない業務委託契約について、解説します。
追加作業の金額でトラブル
トラブルの例
業務委託契約を締結したときに仕様は確定していたけれど、業務を進めていくうちに、発注者から仕様の変更を求められること、フリーランスの方が気を利かせてより良い提案をすることはよくあります。
その際、よくあるのは、フリーランスの方が、追加作業の金額の見積もりを口頭で伝えてしまい、発注者から明確な合意がもらえていないにもかかわらず、追加作業が進んでいってしまうこと。
納品後、追加料金を乗せた請求書を発行しても、発注者から支払いを拒まれてしまい、トラブルになることが良くあります。
解決策
やはり、書面で「見積書」発行 ⇒ 「発注書」を受領、というフローを面倒でも行いましょう。
一々、書面で取り交わすことができないとい方であれば、メールでも構わないので、しっかりと合意してもらった証拠をとっておくことが肝心です。
著作権関係でのトラブル
トラブルの例
企業が、フリーランスの方に記事を制作してもらい、企業のサイトに掲載した後、その方と揉めるなどして関係が悪くなったとき、フリーランスの方から企業に対して、著作権が自分にあることを理由に記事の掲載中止を求めることが、稀にあります。
このとき、業務委託契約書がなく、見積書・発注書・請求書だけでやっていると、企業側としても、冷や汗をかきます。
解決策
企業が、もし記事について相当な報酬を支払っているにもかかわらず、このような請求をされた場合、「黙示の利用許諾」を受けていたと反論することは可能です(大阪高判令和3年1月21日参照)。
もっとも、裁判所で、そのような利用許諾が認められるかどうかはケースバイケースですので、企業としては、やはり業務委託契約書の中で、著作権の帰属を明確にし、フリーランスの方に著作権を残すにしても利用許諾を受ける条項を入れておくこと安心です。
【著作権を企業に移転させる条項例】
1.本業務の過程において制作された著作物に係る著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)については、フリーランス又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、納入物件がフリーランスから企業へ納入された時をもってフリーランスから企業に移転する。
2.納入物件のうちフリーランスが従前から保有していた著作物について、フリーランスは、企業に対し、企業が納入物件を企業の事業のために利用するために必要な範囲での譲渡不能かつ非独占的通常実施権及び利用権を許諾する。
3.フリーランスは、企業が納入物件を利用する(納入物件のうちフリーランスが従前から保有していた著作物を前項に基づき利用することを含む。)場合、企業及び企業の指定する第三者に対し、著作者人格権を行使しないものとする。
【著作権をフリーランスに残し、企業に利用許諾させる条項例】
- フリーランスは、企業に対し、成果物(以下「本著作物」という。)の利用(複製、翻案及び翻訳を含むがこれらに限られない。以下同じ。)を許諾する(第三者に対する再許諾も含む。)。
- フリーランスは、企業に対して、本著作物に係る著作者人格権を行使しない。
アイディアをパクられて報酬を払われない場合
トラブルの例
フリーランスが、企業から、デザイン制作を依頼され、フリーランスが企業をヒアリングし、様々なデザインアイディアを出し、見積もりを伝えたところ、企業がそのフリーランスへの依頼を中止し、そのアイディアを自社でより安く制作してもらえる人に出すという倫理的にどうかと思うようなケースもあります。
解決策
もっとも、フリーランスの方のデザインのアイディアが、著作権で保護されるかは微妙です。
著作権で保護されるのは、創作性のある表現であって、アイディアそのものではないからです。
どこまで表現に類似性があるか、争うことになるでしょう。
このようなトラブルを避けるためには、企業と金額を詰め、契約書を交わした上で、デザインを提案できるのが理想です。見積もり段階では、あくまでも、イメージだけにしましょう。
インボイス制度で免税事業者を理由に価格を改定する場合
ご存知の通り、今年10月より、インボイス制度が始まります。
インボイス制度とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。
今後、フリーランスへの業務委託契約で問題となるのは、フリーランスが免税事業者であること理由に、企業が契約を更新しないか、消費税分の請求をしないよう求める場合です。
企業としては、免税事業者からの仕入れについて、原則、仕入税額控除ができないこととなるため(経過措置あり)、①免税事業者との契約を更新しない、②仕入税額控除が制限される分について、取引価格が引き下げられる場合が考えられます。
この点、公正取引委員会は、フリーランスが免税事業者であることを理由に、フリーランスが支払っている消費税額を賄えないほど、一方的に価格を下げるような場合、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)または下請法違反に当たる可能性があるとしています。
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。
公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」
しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。
また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。
まとめ
企業とフリーランスの関係が良好であることが、一番、望ましいですが、一方が不満を持った場合、契約書がないことや、インボイス制度などを理由に、トラブルに発展する可能性があります。
やはり契約書をきちんと作成して、下請法をしっかりと遵守して、業務委託を気持ちよくしてもらいたいものですね。