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長野法律事務所ホームニュース・ブログ法人のお客様【2025年6月施行】企業の熱中症対策が義務化!労働安全衛生規則改正で変わること

【2025年6月施行】企業の熱中症対策が義務化!労働安全衛生規則改正で変わること

2025.06.19
カテゴリ: 法人のお客様
タグ: 労働災害

はじめに

令和7年(2025年)6月1日より、労働安全衛生規則の改正が施行され、事業者に対して熱中症対策が義務化されます。これまで「努力義務」であった熱中症対策が、罰則付きの「法的義務」となり、企業には具体的な対応が求められるようになりました。

これは単なる「お知らせ」ではありません。対応を怠れば、事業停止命令や刑事罰が科せられる可能性のある、企業経営に直結する重要な法改正です。

なぜ今、熱中症対策が義務化されるのか

深刻化する職場での熱中症災害

近年、職場での熱中症による死亡災害は年間30人を超え、労働災害による死亡者数全体の約4%を占めています。これは決して軽視できない数字です。

現行法の限界

これまでの法令では、熱中症による健康障害の疑いがある人の早期発見や、重篤化を防ぐための具体的な対応について明確な定めがありませんでした。初期症状の放置や対応の遅れが、重篤な結果を招くケースが後を絶たないのが現実です。

改正内容の詳細解説

1. 法的根拠

改正の根拠となるのは、労働安全衛生法第22条第2号です。

事業者は、放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

この「高温による健康障害」に熱中症が含まれ、具体的な措置内容が労働安全衛生規則で定められました。

2. 事業者に義務付けられる2つの対策

① 熱中症患者の報告体制の整備・周知

内容:

  • 熱中症の自覚症状がある作業者
  • 熱中症が生じた疑いがある作業者を発見した者

これらの者が速やかに報告できる体制を「あらかじめ」整備し、作業従事者全員に周知する必要があります。

実務上のポイント:

  • 特に1人作業や少人数作業では、具体的な連絡手順の明確化が重要
  • 緊急時の連絡先リストの作成・配布
  • 報告を受ける責任者の明確化

② 熱中症の悪化防止措置の準備・周知

内容: 以下の措置を「作業場ごと」に定め、作業従事者に周知する必要があります。

  1. 作業からの離脱
  2. 身体の冷却
  3. 必要に応じた医師の診察・処置
  4. その他悪化防止に必要な措置

実務上のポイント:

  • 具体的な実施手順の文書化
  • 現場での迅速な判断・実行体制の構築
  • 医療機関との連携体制の確立

3. 対象となる作業

「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは:

  • WBGT28度以上または気温31度以上の環境下
  • 連続1時間以上または1日4時間超の実施が見込まれる作業

ただし、上記に該当しない作業でも、作業強度や着衣の状況によりWBGT基準値を超える場合は、同様の措置が推奨されます。

企業が今すぐ取るべき具体的対応

1. 体制整備

熱中症予防管理者の選任

  • 労働衛生教育を受けた者
  • 熱中症について十分な知識を有する者
  • 現場の作業管理者への指示権限を有する者

報告・連絡体制の構築

【例:報告体制フロー】
発見者 → 現場責任者 → 熱中症予防管理者 → 安全衛生担当者 → 経営陣
       ↓
   医療機関への連絡・搬送手配

2. 環境管理対策

WBGT値の測定・管理

  • JIS規格適合のWBGT指数計の導入
  • 定期的な測定・記録の実施
  • 基準値超過時の作業中止判断基準の策定

作業環境の改善

  • 簡易屋根の設置
  • 通風・冷房設備の整備
  • ミストシャワー等の散水設備
  • 冷房完備の休憩場所の確保

3. 教育・訓練

管理者向け教育

  • 熱中症の症状と対処法
  • WBGT値の測定・評価方法
  • 緊急時の判断・指示方法
  • 法的責任の理解

労働者向け教育

  • 熱中症の予防方法
  • 初期症状の認識
  • 水分・塩分摂取の重要性
  • 異常時の報告義務

4. 健康管理体制

作業前チェック

  • 体調確認シートの活用
  • 前日の睡眠・飲酒状況の確認
  • 既往症・服薬状況の把握

作業中の監視

  • 定期的な体調確認
  • 水分摂取状況の確認
  • ウェアラブルデバイスの活用検討

違反した場合のペナルティ

行政処分

  • 作業の全部または一部停止命令
  • 建設物等の使用停止・変更命令
  • その他労働災害防止に必要な措置命令

刑事罰

  • 個人:6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
  • 法人:50万円以下の罰金

これらの処分は、労働基準監督署による監督指導により発覚し、企業の社会的信用にも大きな影響を与えます。

実務上の注意点

1. マニュアルの限界を理解する

定められた手順は重要ですが、実際の現場では状況に応じた臨機応変な対応が必要です。画一的な対応に固執せず、患者の状態を最優先に考えた判断が求められます。

2. 「大丈夫」という申し出への対応

熱中症の初期段階では、本人が症状を軽視しがちです。本人が「大丈夫」と言っても、躊躇せず適切な措置を講じることが重要です。

3. 継続的な改善

熱中症対策は一度構築すれば終わりではありません。気候変動や作業内容の変化に応じて、継続的に見直し・改善を図る必要があります。

まとめ

2025年6月の労働安全衛生規則改正により、企業の熱中症対策は「努力義務」から「法的義務」へと大きく変わります。この変化は、単なる規制強化ではなく、労働者の生命と健康を守るための重要な制度改正です。

適切な対応を怠れば、行政処分や刑事罰のリスクがあるだけでなく、何より大切な従業員の命に関わる問題となります。今から計画的に準備を進め、安全で健康的な職場環境の構築に取り組むことが企業の責務です。

今後のスケジュール

  • 2025年4月15日:改正規則公布済み
  • 2025年6月1日:改正規則施行
  • 施行後:詳細な通達が発出予定

不明な点や具体的な対応にお困りの場合は、労働安全衛生に詳しい専門家にご相談されることをお勧めします。法改正への適切な対応により、安全で健康的な職場環境を実現しましょう。


この記事は2025年4月時点の法令に基づいて作成されています。最新の情報については、厚生労働省の公式発表をご確認ください。