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【2026年施行】「社内システムの開発」が下請法の対象外!? 知っておくべき「自社利用」の落とし穴

2025.12.14
カテゴリ: 法人のお客様
タグ: 契約書

「クライアントから『社内管理システム』の開発を丸投げされた。これって下請法で守られるよね?」

システム開発会社の皆様、そう思っていませんか?
実は、「クライアントが自社で使うためのシステム」の場合、どんなに大変な開発であっても、下請法(および新しい「取引適正化法」)の保護対象外になる可能性があることをご存知でしょうか。

2026年から下請法は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:中小受託取引適正化法)」に変わりますが、この「落とし穴」は残ったままです。

今回は、なぜ「自社利用」が対象外になり得るのか、その意外な理由と対策をわかりやすく解説します。


1. ポイントは「外注」か「購入」かの違い

法律の世界では、ビジネス取引を大きく2つに分けて考えています。

  1. 下請負(アウトソーシング): 自分たちで作れる(あるいは自分たちの商売である)けれど、手一杯だから外に出す。
  2. 購入(ユーザーとしての利用): 自分たちでは作れないから、プロにお金を払って「完成品(または機能)」を買う。

下請法(取引適正化法)が守ろうとしているのは、あくまで 1. の「下請負」 です。
なぜなら、発注側もプロ(作り方を知っている)である場合、「もっと安く作れるだろう」と買い叩きが起きやすいからです。

一方で、2. の「購入」 は、パン屋さんがレジスターを買うようなものです。パン屋さんはレジの作り方を知りません。この場合、発注側は「素人(お客様)」という扱いになり、法律でガチガチに規制する必要はない(対等な商取引である)、と考えられています。

2. 「自社作成能力」という残酷な判断基準

ここで問題になるのが、システム開発の 「自社作成能力」 という判断基準です。

例えば、あるメーカーが自社の在庫管理システムを発注してきたとします。

  • ケースA:そのメーカーに「システム開発部」があり、プログラマーがいる場合
    • 「自分たちで作れる能力があるのに、外に出した」
    • 判定:情報成果物作成委託(下請法の対象◎)
    • 守られる!
  • ケースB:そのメーカーには「システム担当」しかおらず、コードは書けない場合
    • 「自分たちで作る能力がないから、プロに頼んで作ってもらった(購入)」
    • 判定:単なる役務の提供・購入(下請法の対象外×)
    • 守られない!

驚くべきことに、「発注側に技術力がない(丸投げしてくる)」ほど、受注側は法律で守られなくなるというパラドックス(逆説)が生まれてしまうのです。

これが、「自社利用(類型3)」における最大の落とし穴です。

3. フリーランスと中小企業で運命が分かれる

「えっ、それじゃあ全部対象外になっちゃうの?」と思われた方、ここで重要な分岐点があります。
あなたが 「フリーランス(従業員なし)」「中小企業(従業員あり)」 かで、適用される法律が違うのです。

① あなたが「フリーランス」の場合

朗報です。
2024年11月施行の「フリーランス新法」があなたを守ります。
この法律では、「相手に作る能力があるか」なんて細かいことは問いません。「仕事を頼まれてサービスを提供する」なら、すべて保護対象です。丸投げ案件でも安心してください。

② あなたが「中小企業(従業員あり)」の場合

要注意です。
あなたは引き続き「下請法(取引適正化法)」の世界にいます。
つまり、クライアントの社内システムを作る案件では、「相手に開発能力がない」と判断された瞬間、保護対象外になるリスクが依然として残ります。

4. 私たちが取るべき対策

2026年の法改正(中小受託取引適正化法)でも、この「自社利用の区分」の基本構造は変わりません。
従業員を抱える開発会社が身を守るためには、以下の対策が必要です。

  1. 契約書で防衛する
    法律の適用が怪しい場合は、契約書(基本契約)の中に「下請法相当の支払条件(60日以内払いなど)」や「仕様変更時の追加費用」を明記し、民事契約として合意しておくことが最強の盾になります。
  2. 「請負」か「準委任」かを確認する
    「完成責任」を負う請負契約よりも、役務(エンジニアリング)を提供する「準委任契約」の方が、理不尽なやり直しや買いたたきを防ぎやすい傾向にあります。

まとめ

  • 下請法(取適法)では、「自社利用」のためのシステム開発は、発注側に開発能力がないと「ただの買い物」とみなされ、保護されないことがある。
  • フリーランスなら「フリーランス新法」でカバーされるので問題ない。
  • 中小企業の場合はリスクが残るため、契約書での自衛が必須。

「法律が守ってくれるはず」と思い込まず、自社の立ち位置と適用される法律を正しく理解して、賢く契約を結びましょう!