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公益通報者保護法違反:兵庫県知事の事例から学ぶ

2024.10.04
カテゴリ: 労働・労災
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こんにちは。弁護士の長野修一です。今回は、最近話題となった兵庫県の齋藤知事による公益通報者探索の問題について、法律家の視点から解説します。

事例の概要

兵庫県の齋藤知事が、自身に関する通報を行った職員を探索し、懲戒処分を行った行為が、不信任決議に繋がりました。この行為には、公益通報者保護法の観点から見て、重大な問題がありました。

告発者探索の経緯

  1. 2024年3月中旬、男性職員が齋藤知事に関する7つの疑惑を記載した告発文書を報道機関に送付しました。
  2. 知事は告発文書を把握した直後、副知事らに調査を指示し、告発者の特定を開始しました。
  3. 調査の過程で、男性職員の公用パソコンから告発文と一致する文書データが発見されました。
  4. 前副知事が男性職員から聴取を行い、文書作成の有無などを確認しました。

主な問題点

1. 公益通報者保護法の趣旨に反する行為

齋藤知事の行動は、公益通報者を保護し、組織の不正を是正するという同法の基本理念に真っ向から反するものでした。

2. 通報者探索の禁止違反

2022年の法改正で新設された指針では、通報者の特定行為が明確に禁止されています。しかし、知事は積極的に通報者の特定を指示し、この規定に違反しました。

3. 不利益取扱いの実施

知事は通報者を特定した後、懲戒処分を行いました。これは公益通報者保護法が明確に禁じている不利益な取扱いに該当します。

4. 調査の公正性の欠如

疑惑の対象となっている知事自身が調査を主導し、処分を決定したことは、調査の公正性と中立性を著しく損なうものです。

5. 通報内容の軽視

知事は通報内容を「うそ八百」と批判し、その真偽を適切に調査せずに通報者の処分を急ぎました。これは公益通報の本質的な意義を無視する行為といえます。

6. 組織の透明性と信頼性の低下

このような対応は、県政の透明性と信頼性を大きく損なう結果となりました。公益通報制度の目的である組織の自浄作用を阻害する行為といえます。

法的観点からの考察

公益通報者保護法は、労働者が公益のために通報を行った場合に、不利益な取扱いから保護することを目的としています。外部の報道機関への通報も「3号通報」として保護の対象となる可能性があります。

法律は事業者に対して、通報者の探索を防ぐための措置を講じること、探索が行われた場合はその行為者に対して適切な措置を取ることを義務付けています。これらの義務は、内部通報だけでなく、行政機関や報道機関等への通報にも適用されます。

重要な点として、通報が公益通報者保護法の厳密な要件を満たさない場合でも、事業者は通報者探索を防ぐ義務があります。また、通報内容が「核心的な部分が事実ではない」と判断されても、直ちに通報者探索が正当化されるわけではありません。

まとめ

齋藤知事の行動は、公益通報者保護法の精神に反し、法的にも深刻な問題があったと言わざるを得ません。このような事態は、公益通報制度の健全な運用と組織の健全性を脅かすものでした。

今後、企業、公的機関を含むあらゆる組織が、公益通報制度の重要性を再認識し、適切な運用を行うことが求められます。また、通報者の保護と組織の透明性確保のバランスを取りながら、健全な組織運営を行うことが重要です。