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契約締結上の過失:長野県発注キャンセル事件から学ぶ教訓

2024.04.06
カテゴリ: 法人のお客様

はじめに

2020年、新型コロナウイルス感染症対策のため、医療用防護服の調達が全国的に急務となりました。

本記事では、長野県が民間企業に発注した防護服について、契約締結上の過失が争われた裁判を取り上げ、その詳細と教訓について解説します。

https://news.goo.ne.jp/article/47news_reporters/region/47news_reporters-20240322125327.html

事件の概要

2020年4月、長野県は松本市の企業に対し、医療用防護服8万着の購入を検討している旨打診しました。
その後、やり取りの中で、長野県は「物品購入状況説明書」という文書を企業に渡し、契約書等を準備していることを記載しました。
しかし、長野県は医療機関への調査結果から需要が減少したことを理由に、5万着のキャンセルを企業に伝えました。

一方、企業側はすでに調達先に発注しており、2万着しかキャンセルできませんでした。
残りの3万着は損失となり、企業は長野県を相手取り1億3千万円の損害賠償請求訴訟を提起しました。

裁判所の判断

長野地方裁判所は、2024年2月、県は企業に対して、約6700万円を支払うよう命じる判決を言い渡しました。。

その理由は以下の通りです。

契約の成立:裁判所は、「物品購入状況説明書」には公印がなく、契約書作成という本来の要件を満たしていないことなどから、売買契約は成立していないと判断しました。

信義則違反:しかし、長野県は副知事自らが交渉に当たり、防護服の単価や枚数などを具体的に協議するなど、契約締結に向けた積極的な行動を取っていました。

裁判所は、こうしたことから、企業側は長野県との契約成立を信じる相当の理由があったと判断し、長野県が信義則に違反したと結論付けました

信義則は、法律関係者間の誠実な行動を要求する法の原則です。
契約が正式に成立していなくても、一方の当事者がその成立を確信して行動を開始した場合、他方がその期待を裏切る行動を取ることは信義則に反する可能性があります。

控訴と今後の注目点

長野県側は控訴し、東京高等裁判所で審理されることとなりました。

今後の争点は、以下の点に焦点が当てられると考えられます。

  • 「物品購入状況説明書」の法的性質:単なる状況説明文書なのか、契約締結に向けた意思表示とみなせるのかが争点となります。
  • 信義則違反の認定基準:企業側の期待形成と、長野県の合理的な行動の内容が問われます。

教訓

この裁判は、契約締結前の段階における当事者の言動が、その後の責任に大きく影響を与えることを示しています。

特に、行政機関が民間企業と取引する場合には、より慎重な対応が求められます。

具体的には、以下のような点に注意する必要があります。

  • 文書の形式: 正式な契約書を作成するだけでなく、仮契約書や覚書など、状況に応じて適切な文書を作成し、双方の合意内容を明確にする
  • 情報公開: 契約締結の意思表示を明確にするだけでなく、需要見込み等の情報もできる限り開示し、相手方の誤解を招かないようにする
  • 意思疎通: 双方の担当者が密にコミュニケーションを取り、契約内容について十分な協議を行う。

今回の裁判は、契約締結上の過失に関する議論に新たな視点を提供しました。 今後の行政機関と民間企業の取引において、この判例がどのように参考にされるのか注目されます。

リスクマネジメントとして

上記のように、契約締結前の段階における言動は、その後の責任に大きく影響を与える可能性があります。

もし、契約締結に関するトラブルにお困りの場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士は、個々の事案に適した法的アドバイスを提供し、あなたの権利を守るために尽力することができます。